「ロード・オブ・ザ・リング」に見るライトモチーフ Part. 1
今回は、映画「ロード・オブ・ザ・リング」の音楽で使われるライトモチーフの手法について触れていきます。
次回は、そのうちの一つのモチーフを取り上げて、映画の中でどのように発展していくか見ていきます(というより、今回はそれをやりたいがための導入記事です笑)
ライトモチーフとは?
ライトモティーフ(ライトモチーフ、独: Leitmotiv )とは、オペラや交響詩などの楽曲中において特定の人物や状況などと結びつけられ、繰り返し使われる短い主題や動機を指す。単純な繰り返しではなく、和声変化や対旋律として加えられるなど変奏・展開されることによって、登場人物の行為や感情、状況の変化などを端的に、あるいは象徴的に示唆するとともに、楽曲に音楽的な統一をもたらしている。示導動機(しどうどうき)とも。
以上、Wikipediaからの引用です。
つまり、あるモチーフや主題をアレンジして、特定の人物・感情・状況と結び付けて登場させていく手法です(Wikiに書いてある通りの説明ですが...)。
「ロード・オブ・ザ・リング」(以下、LOTR)のサウンドトラックでは、この手法が使われまくってるわけですが、他の映画だと「スター・ウォーズ」などもそうです(レイアのテーマ、フォースのテーマ、ヨーダのテーマのように人物・集団や状況に関してのテーマがありますよね)。
「LOTR」の1作目「旅の仲間」ではどのようなライトモチーフがあるのでしょうか。
全部取り上げてるとかなりの量になってしまうので、いくつか主要なものを取り上げます。
一つの指輪
この「一つの指輪(サウロンの指輪)」を滅ぼすことをめぐってLOTR三部作では話が展開されていきます。
持ち主の心を誘惑し、欲望の力で破滅させて、サウロンの元に戻ろうとする指輪ですが、こちらのモチーフは以下のようなもの。
ヴァイオリンが高い音域の中で、音符が上下にジグザグに揺らめいて動いていきます。
指輪の秘める魔力、妖艶な印象が強く感じられるモチーフです。本当にぴったりな旋律だと思います。
このモチーフは、最初のガラドリエルによって語られるプロローグでも登場します。
モルドール、サウロン
こちらも上記のプロローグの動画(2:08~2:12)に少し登場するモチーフです。
上の動画だと分かりにくいので、3作目からのものではありますが、以下に貼っておきます。
これは「一つの指輪」の変化形だと考えられます。ある意味サウロンの一部は指輪で、指輪の一部はサウロンであり、モルドール≒サウロンのイメージからも、モチーフが似たものだとしても不思議ではありません。
2つのモチーフの楽譜を見比べてみましょう(「上行し細かく上下してから下の音へ」の流れが同じです)。
ちなみに旋律を奏でてるのは、「rhaita」という北アフリカの楽器みたいです。
ホビット庄(シャイア)
ホビット庄のテーマです。こちらは、ホビットたちが場面の中心になったり、ホビット庄やそれが連想されるような場面で使われます。ペンタトニックスケールを軸に構築された旋律で、童謡のような素朴な印象を与えます。
このモチーフを使った音楽のバリエーションが劇中では数多く出てきますが、下の動画(少し長めです)ものは英語で"Hobbit's Understanding"というバリエーションの名前で呼ばれています。
ホビット同士が、旅の困難や苦闘をお互いに理解しあったときに主に使われるバリエーションです。
旅の仲間
旅の仲間を表すときに使われるモチーフです。
今回はこちらの説明は省略します。
次回の記事で、このモチーフがどのように劇中で場面によって発展・変化していくかを見ていきます。
アイゼンガルド、サルマン
5拍子が特徴的なモチーフです。奏でるのはトロンボーンとチューバ。5拍子を刻む打楽器は、アンヴィル(金床)という楽器や金属のプレートで、アイゼンガルドの工業的なイメージを一層引き立てています。
ナズグール(指輪の幽鬼、黒の乗手)
サウロンに隷属している9人の幽鬼(もとは人間の王たち)のテーマです。
以下のバリエーションでは、グレゴリオ聖歌「怒りの日」のモチーフを利用していますね (1:17からチューバなどが奏でています)。
↓グレゴリオ聖歌「怒りの日」
この「怒りの日」のモチーフは、「死」やそれに関連したものを表すモチーフとして他の様々な映画でも多く使われています。これについては、また別の記事で扱います。
ロスローリエン
このモチーフは、ロスローリエンを表すものとして、あるいはそこを治めるガラドリエルのテーマとして使われます。Fフリジアン・モードの旋律です(バリエーションによっては、最後の音が半音高くなりB♭のハーモニックマイナーになることも)。
以下の動画は、ロスローリエンに旅の仲間が足を踏み入れた場面。
そして2つ目は、プロローグでガラドリエルが語るところで使われています。
まとめ
いかがでしょうか?
1作目の中には、他にもまだまだ様々なモチーフやそのバリエーションがありますので、気になった方は注意して映画を観てみると何か発見があるかもしれません。
ライトモチーフを意識しながら映画を観るとまた一層違う楽しみ方ができるかと思います。場面によってモチーフの使われ方、アレンジが変わりますが、その違いも作曲家は意図して作っていたりします。
次回は、「旅の仲間」のモチーフがどのように映画の中で変化していくのかに注目していきます。