【アナライズ】映画「マトリックス」オープニングロゴ
今回もハリウッド映画音楽の【アナライズ】です。
取り上げるのは、、、
映画「マトリックス」より、一番初めのオープニングロゴのサントラ(以下の動画で0:00~0:41)です。
作曲家は、ドン・デイヴィス氏です。
デイヴィス氏は、「マトリックス」で一気に注目を集め、その後に「ジュラシック・パークⅢ」や、最近では邦画「東京グール」のサントラも担当しているようです。
ハリウッド映画音楽には「マトリックス」でのブレイク以前から、オーケストレーションの面で関わっているものも多いです。アラン・シルヴェストリ氏や、特にジェームズ・ホーナー氏の裏でオーケストレーションを担当することもあり、映画音楽を支えていました。
以下、自身でパート別に打ち込んでみた音源です。上から順に、全体、木管楽器、金管楽器、打楽器(ピアノ、ハープ含む)、弦楽器。
理論
今回は使われている和声やスケールの分析というより、主にモチーフについての解説にしてみます。
全体的には、機械的な短いフレーズが集まって組み合わさって曲が形成されています。そのためか、少しだけ「現代音楽」的に聴こえます。
さて、「マトリックス」の中で、たびたび出てくるモチーフの1つ目が以下。
Ex. 1
ホルン(Eマイナー・トライアド)とトランペット(Cメジャー・トライアド)が交互にクレッシェンド・デクレッシェンドを繰り返します。ホルンの音量が小さくなると、トランペットが大きくなり、トランペットが小さくなるとホルンが大きくなります。
この曲の中で、後に金管がポリコード(あるいは多調)を構成しているパートが出てきますが、最初のこのモチーフによってそれを予感させています。
このモチーフが使われるのは、最初のトリニティが逃走して大ジャンプしている場面など、仮想空間内でキャラクターが「超人的」な力を発揮してスローモーションになっている場面が多い気がします。
以下は、2つ目のEエオリアンのモチーフ。
Ex. 2-1
Ex. 2-2
2つ挙げていますが、基本的に一つ目のEx. 2-1が基本形として使われています。このモチーフを担っているのは、中間部では低音域の楽器が、後半部では中~高音域の楽器です。これについてはオーケストレーションの解説部分で、もう少し詳しく書いてみます。
この単純なモチーフがパートごとに少しずつ異なった音型で重なっていたり、同じ音型でも少しずつズレていたりすることで、結果的に複雑な音に聴こえてきます。上記のYouTubeの映像のように、細かい文字が集まってモザイクアートのようにまた大きな文字を形成している、そんなイメージに合った曲だと聴いていて感じました。
このロゴでは修飾的な使われ方が主ですが、他の場面ではこのモチーフの組み合わせが中心になって盛り上げを担当している曲もあります。
オーケストレーション
まずピアノが2台分入っています。また、バスクラリネットが頻繁に使われていたり、打楽器ではウォーターフォン(waterphone)も登場したりと、普通のオケ編成とは少し違って特殊なところがあります。
木管楽器
前半部では、クラリネットとバスクラリネットがずっと同じ音型でトリルを刻み続けています。
中間部では、バスクラリネットとバスーンが、上記Ex. 2のモチーフを低音で刻みます。このように低音系の楽器でpp(ピアニッシモ)で細かく刻むと、ぼんやりとしたザワザワとした雰囲気を作ることができますね。バスーンは弦の音質をそんなに変えることなく、リズム音型を浮き上がらせることができますので、個人的にも大変重宝しています(ここではチェロも同じような刻みをしています)。
後半部ではフルートやピッコロが登場し、Ex. 2のモチーフをバラバラに奏でています。同じ音型を少し遅らせて他のパートでも鳴らしていくことで自然とディレイがかかったように聴こえてきます。
金管楽器
金管については聴いた通り、前半部ではホルンとトランペットがEx. 1のモチーフを奏でています。
中間部では、トロンボーンも加わってきて、クレッシェンドによって盛り上げの担当もしています。
後半部では、ホルン、トランペット、トロンボーンによってポリコードが形成されています。ただ、後半部の最初で一気に金管が鳴った時にはトランペットだけはppp(ピアニッシシモ)です。そこから最後にかけてトランペットはクレッシェンドしていきますが(ホルン、トロンボーンはロングトーンで鳴ったまま)、それとともに和音の聴こえ方も変わってきて面白いです。
打楽器・鍵盤楽器
前半部は、ピアノ1台目が3連符で「EB↑E↑」を、2台目が16分音符で「E↑B↑E↑B↑」をアルペジオで演奏しています。ここでも、似ているようで違う音型が組み合わされて結果的に複雑に、そして自然とディレイがかかったように聴こえてきますね(ハープはオクターブでEの音をアルペジオで奏でています)。
中間部では、ウォーターフォンが登場します。金属的で擦るような音色が特徴的。ホラーやサスペンスでよく使われそうな音色ですよね。
弦楽器
前半部では、ヴィオラがディヴィジされ、2パートに分かれてトリルしています。この部分は、クラリネット、バスクラリネットとユニゾンしています。
中間部で、今度はチェロがディヴィジされ、バスクラリネットとバスーンと同じモチーフEx. 2が基本になって演奏されています。
後半部では、Ex. 2のモチーフをヴァイオリンとヴィオラがバラバラと演奏し、高音域担当の木管(フルート、ピッコロ、オーボエ、クラリネット)のモチーフと混ざってディレイ効果がここでも生まれています。
まとめ
いかがでしょうか。
「マトリックス」のサントラは、他の映画のサントラと比べても少し特殊に個人的には感じます。それも機械的な短いモチーフを組み合わせているような音楽だからでしょうか。
「マトリックス」をちゃんと観たのは、中学生の時だったかと思いますが、大学生になって再び観たときにも「あ、これこれ、こんな音楽ついてたなぁ」と感じたことを覚えています。歌えるメロディでは決してありませんが、印象に強く残る音楽でした。
それも、こういった作りの曲が「マトリックス」の世界観にピッタリと合っていたためだったからかもしれません。次に「マトリックス」を観る時は今回の記事で取り扱ったようなことにも注意を向けながら観てみると面白いかも・・・?
以上、「マトリックス」のオープニングロゴのサントラ解説でした!